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▼『ルーツ』③

『ルーツ』は米国の黒人作家アレックス・ヘイリーが
白人社会に身をおく黒人としての自分のご先祖様を
何代か遡っていき 売買された奴隷である祖先に行き当たり
そこからの家系を自分にいたるまで辿っていくルポ的な著作であった
悲惨な歴史を通じ 人種差別の歴史的意義をあぶりだす力作でもあった

ところが日本ではなにをどうとっちがえたのかわからぬが
『ルーツ』が自分の祖先探し・先祖自慢につながっていった
確かに歴史上の有名人の末裔というのは誇らしげなことだ
私も親父からわが家系は神官の家系で 遠くは藤原家に繋がると言われ
なんだかそれだけで 根拠のない優越感を感じたことを覚えている
『いやー実は先祖は幕末の志士○○だったんだよなー』
なんて言ってみたいし 言われると急に存在が大きく見える

しかし
小田実の『世界が語りかける』の冒頭部分を読んで 私はぶっ飛んだ

『「系図」というのはふしぎなものだ。世界各国、おおむね父方だけで
 さかのぼって行く。さかのぼって行くうちに、わが祖先は何トカ天皇
 だということになる。何トカ村の大地主だということになる。ここら
 あたりを支配していた大名になる。大名の参謀の家老になる。その家
 老に仕えたサムライになる。そういうことを自慢するのが若いののな
 かにまでいる。ついでのことを言うと、それを祖先から伝わった先祖
 伝来の家屋敷、土地といっしょに自慢するのがいる。アホウだ。こう
 いうのには、要するに、それはそいつが人殺し、無法者、大泥棒、
 サギ師の子孫であるということを示しているだけのことではないか。
 理由?―そんなものは自分で考えたまえ。ひとつだけ言っておこう。
 人間は元来平等であり、土地は万人のものであった(マルクス、キリスト、
 釈尊、福沢諭吉みんな言っている)。だから、他人を家来にして、天皇
 になったり、大名になったりする。あるいは、土地を勝手にひとり占め
 して、この土地はオレのものだと宣言して大地主になる。こういうこと
 すべては人を殺めたり、腕ずくで人の持ち物を奪ったり、あるいは、
 ごまかしてチョロまかしたりしないとできないことだ。つまり、「家柄」
 の家系、もうそれだけで人殺し、大泥棒のたぐいの家系だということに
 なるだろう。先祖は、つまり、その連中だった。
  「系図」のふしぎの第一は、「系図」がたいていそういう恥さらしの
 事実を人まえにさらけ出すためにつくられることだが(その証拠に、初代
 百姓タゴ作。― 二代目百姓タゴ作 ― 三代目百姓タゴ作……レンメンと
 つづいて現代に至るという「系図」は私は寡聞にして見たことがない)、
 第二のふしぎは、さっき言いかけたが、あまた、あちこちに伸びて行く
 はずの「根っこ」を父方の一本を残してみんな断ち切ってつくられて
 いることだ。
  父方の一本だけに収斂させて考えて行けば、たしかに「系図」は次第
 に先細りして、それこそ先祖は天皇、大地主、大名、家老、サムライ
 などの人殺し、大泥棒のたぐいになるというまことに絶望的なことに
 なるかもしれないが、母方の一本をそこにつけ加えるだけで、たとえば、
 そこから、わが「家系」は世界に名だたる名無しのゴンベエ族にひろが
 って行くという希望的なことがらになる。世界がなんとなく明るくなる。

          ----中略ー---

  だから、私はこのつまらぬこと多きこの世界にまだ希望を持つのだ。
 そこまで考えをはせれば、世界の前途はまだまだ明るいし、老い先まだ
 まだたのしいと思うのだ。』



目からウロコどころか 眼球そのものがぽろっと落ちてしまった
ワン・ツーとストレートをくらってから 強烈なアッパーがヒットし
リングのど真ん中で 1ラウンドKOだった!


 
 
2010/01/14 08:39 (C) FPのひとりごと
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